2006年05月03日（水） ホラーじゃないんだって
▼ 中井拓志『獣の夢』
ちょっと、最後の叙情が不意打ち気味であやうく泣かされそうになった。
なまじ角川ホラーなんかから出し続けるもんで、正当な評価がされないのだと思う。相応しいタイプの読者がついてないんじゃないのか（Amazonのレビューにある「メッセージ性は『破線のマリス』に劣る」ってのは何なんだ。そんな話じゃないぞ）。私の界隈でもあんまり読まれてないんじゃないですかね。しかし、中井拓志は確かに「特別な作家」なんだ。SFの。ハヤカワの「リアル・フィクション」あたりから出したなら、きっと年間ベストの上位に行くよ。そのくらいの作家だと思うよ。
確かにお世辞にも上手な書き手とは言えない。そもそも物語という体裁をほとんどなしてない。会話の書き方とか、読んでいて混乱するくらいのダメさ。それでも、いつもどこか普通と違った視点で世界を見せてくれるその切り口や、最後の最後に一瞬だけ垣間見える、鮮烈なまでの叙情が、もうたまらないのです。その叙情の余韻もすぐに見えなくなってしまうあたりもまた、切なくて良い。たった一語のきらめきを高めるための伏線（とも呼べないような伏線）は、あんまり見事に背景を装っているのですっかり騙される。
こんな話。1995年、世間を震撼させた「宇尾島小学生死体損壊事件」。校舎の屋上で、小学生の集団が友人の死体をバラバラにしたのだった。「クラスは獣に食われていた」――事件の主導者のひとりとされた少女、宮地珠紀のこうした発言がクローズアップされ、『獣』化した子ども達による忌まわしい犯罪として記憶にとどめられることとなる。
それから９年――事件当時の担当刑事だった内海は、宮地珠紀から不思議な言葉を聞かされる。
「『獣』が戻ってきます」
翌日、同じ小学校の屋上で、若い男性の死体が発見された。それは、９年前の事件と同じようにバラバラにされていたのであった。宮地珠紀はこのことを予知していたのか？
予知をしていたのは彼女だけではなかった。科警研心理１室、IP (=Information Profiling) 研究班から、「今夏、９年前の事件を模倣した凶悪犯罪が発生する可能性がある」という通達が出されていたというのである。彼らは一体何を根拠にそのような予言をしてみせたのか。『獣』とは何なのか。科警研が恐れる "pandemic" 現象とは？
実のところ、その辺の「謎」の大半は早い段階で想像がついてしまうのだけど、この作品のキモはもう少し深いところにあるので問題なし。宮地珠紀が「きらきらと微笑む」「とち狂った美貌」の「天才」として造形されてるのとかは、たぶん作者の趣味。あ、読者たる私の趣味にも合致しますことを告白しておきます。
１月に出てたのに今頃になってようやく読んだ。放っといたことを今では後悔している。中井拓志の作品に、より多くのファンがつきますように！
▼ それから、
更新滞ってすみません。ちょっとこれからしばらくこんな感じかも。SFセミナーも行きたかったのにー！！
素人女性から投稿された過激な画像、写真を掲載しています。多少刺激の強い内容のものも含まれておりますので、未成年の方はご入場なさらないでください。
各都道府県でこのような有給ボランティア休暇の適用が増えて防犯対策ができれば米山豪憲君のような犯罪が少しでも防ぐことができると思います。
素人女性から投稿された過激な画像、写真を掲載しています。多少刺激の強い内容のものも含まれておりますので、未成年の方はご入場なさらないでください。
気分転換にhnを変えてみました。こちらは予定していた休日が潰れてしょんぼりです。<br>かろうじて今度の土日が二連休。はい、ただの週休二日ですねｗ<br>おかげで『AIR』はお預けを喰らって、期待ばかりが先行中。うーんイカン感じだ。<br>以前書かれていた、藤崎慎吾『蛍女』(当方既読)と『ひぐらし〜』を絡めた感想と、今回の<br>中井拓志『獣の夢』(未読)のレビューで、オヤシロ様の見当がついた、と思ってる自分は<br>たぶんアホなんだろうな。とりあえず、『獣の夢』も読んでみます。<br>更新などはごゆるりと。忙しいのは悪いことじゃないですよー
すばらしい味わいの（抜け切った）hnですね。<br>AIRそんなに期待されるとガッカリされそうで怖いのですが！<br>ひぐらしの私の予想は少なくとも大ネタ部分は完璧に外れておりましたよ。まあ雛見沢に○○○が実在する、って辺りは読んだ通りだったんですが。<br>しかし確かに話の紹介だけすると微妙にテイストが似てますね、『獣の夢』と『ひぐらし』。『獣』のネタはもうまるっきり違う方面なのですよ。
（抜け切った）←実際いろんなところが抜けてますから。<br>『獣の夢』読了。文庫は通勤中に読めるのが良いです。<br>個人的には斉木の「九年前の〜最高だったんだ。」のくだりがグッときました。<br>宮地珠紀の能力解説(表徴の背景に潜む布置、隠れた文脈が織りなす星座、云々)はそのまま「上手なミステリ」解説に転用できそう。もちろん模範的な読者である僕は、「間違うお姉さん」だ。<br>恐らく僕らの知る最も物騒な『獣』は「９.１１」で、無害なのは今なら「エビちゃん」あたりなのだろう。
うわあ、いつも私などのオススメを気にかけてくださって恐縮です……。<br>私はその１行前の「あの〜、○○○かった。」で一瞬にして目から汗が出そうになってました。<br>なるほど、ミステリの仕組み。あと、みやたま様は将棋とか指すときっと天才ですね。<br>もしあの作風が嫌いじゃなければ、同作家の『Alice in the right hemisphere』はよりSF色が強く、より力の入った作品ですよ、と性懲りもなくオススメしてみたり。