トップ «前の日記(2005年09月24日(土)) 最新 次の日記(2005年09月28日(水))» 編集

もりげのどうかと思うような日記

過去の日記
feed:RSS/atom

2005年09月25日(日) イーガン最高ぅぅぅ!

グレッグ・イーガン『ディアスポラ』

これは、ぼくの生涯ベスト5の中に確実に入るだろう。いまの時代に生み出されうる最高のSFである。

冒頭の、仮想空間内で生成されるプログラムに真の知性が宿ってゆく感動的なプロセス描写。

種の存続のために故郷を後にして銀河へと散ってゆく、それらソフトウェア化された人類の姿。

彼らが遠い星で出会う、今までどんなSFにも描かれたことのなかった驚くべき生命。

そして物語は、この宇宙を抜け出してその先へ。世界の何かを理解するために。あるいはまた、人生の意味を知るために。

ラストの壮大なヴィジョンと、そこに表されたあまりにも深い情感に、胸を震わさずにいることは難しいだろう。

作中における万物理論の候補として、作者みずからが構築した「コズチ理論」も美しい。またそれを元に、この宇宙とは別のルールに基づく世界を、その量子理論から緻密に構成するようなシーンもあり、イーガンの圧倒的なハードサイエンス志向が完璧に活かされている。6次元時空の描写のすさまじさは必見。

だが決してそれだけの作品ではない。ハードサイエンス志向のその先に何かがあるからこそ感動的なのである。

確かに物理学SFでもあるし、数学SFでもあるし、情報科学SFや人工生命SFでもあるだろう。しかし、何よりこれは、人間の作り出しうる最も壮大な叙事詩のひとつだ。

作中のさまざまな細部が響きあい、展開され、登場人物たちの思考は複雑な対旋律をつくりあげる。枝葉のモチーフを良く眺めれば、それらひとつひとつが、作品全体から要請された必然として作られていることに気づくだろう。また逆に、モチーフの構造自体が全体の構成を予言していることにも。

そういった意味で、「交響詩的に」構成された作品だと思う。壮大なイメージや、宇宙や人類といったテーマへの真摯な探究心、などといったことだけでなく、その音楽的・有機的構成もまた、かのオラフ・ステープルドンの作品群と並び称されるべき物である。

当代最高の作家の最高傑作。読むと読まぬでは人生が変わる。

あと私信:数学、わけても位相幾何学が専門の我が友人よ、ぜひともご一読の上、感想をおきかせくださいますよう!

本日のツッコミ(全9件) [ツッコミを入れる]
_ 私信の相手と思われるひと (2005年09月30日(金) 19:23)

えー,小説というものがほとんどまともに読めたことがない人間が,<br>どう感想を書けばよろしいのでしょうか.<br>(近年は冗長性の極端に低い文章ばかり読んでいるのがそれに輪をかけている)<br>ここは,もりげ氏自身の言葉で作品の素晴らしさを語っていただき,それに対して僕が感想,<br>という形がよろしいかと.<br>(とはいえ物理についてはまるで素人ですので,過剰に期待なさらぬよう)<br>でも本屋で見かけたらちょっと立ち読みくらいしてみます.<br>全部読むのはなんか僕にはきつい気がしますので<br>(もりげ氏には信じられないかもしれませんが).

_ 私信の相手と思われるひと (2005年09月30日(金) 19:27)

しかしなるべく読む方向で努力します

_ もりげ (2005年10月04日(火) 22:45)

うわあ、お返事遅れてすみません。そうなんですか。残念だなあ。「標準ファイバーが4次元球面の6次元時空宇宙」(私はあんまり意味わからず言ってます)の描写とかのできばえを判断していただきたかったんです。そこだけでもどうでしょうか。

_ 私信の相手と思われるひと (2005年10月06日(木) 01:29)

僕なりにどういうことを思うか書いてみますが,<br>僕はむしろ,「以下を読む前のもりげ氏の印象がどうであったか」<br>に興味があります.ご承知おきを.<br><br>4次元球面ですが,おそらく数学をやっていても<br>4次元球面をちゃんとイメージできるようにはなりません.<br>数学がモノを認識する方法はあたかも次のようです.<br>***<br>目の見えない者が「象」を認識するために,<br>ある者は耳,ある者は鼻,ある者は腹,ある者は尾を<br>触り(当人はそれが耳,鼻,腹,尾であることを知らない),<br>それぞれの印象を語り合う.<br>その結果,得られた情報を総合して「象」は<br>このようなものでなければならぬという結論に達する.<br>しかし象の全体像は最後までよくわからない.<br>***<br>要するに「疑いなく正しい」「局所的な」<br>ことの積み重ねで全体を理解するわけです.<br>しかし,こうした考察が我々のよく知っている図形に<br>対する新たな知見を生むことがあります.<br>「たとえば,地球(2次元球面)上には,気温が同じであって<br>互いに真裏の関係にある二点の組が常に存在する」<br>「地球には,常に無風の地点が存在する」<br>という事実が,2次元球面という図形の特性により成立しますが,<br>こうした事柄も地球を先程の象の話のようにして分析して<br>はじめて証明に至ります.(なお今は地球の表面にしか注目<br>していないので3次元でなく2次元になる訳です)<br><br>さて,4次元球面は,もし世の中に存在すれば,<br>一様で丸くて4方向に広がりがある図形には違いありませんが,<br>僕も見たことがないのでよく分かりません.<br>ところで宇宙に浮かぶ地球の図で想像できるとおり,<br>2次元球面を描くためにはどうしてもそれを包む<br>3次元の空間を要します.おそらく4次元球面を<br>まっとうに描くには5次元の空間を用意しなければならない<br>でしょう.<br><br>このように球面を想像しようとするとき,1次元高い<br>空間の中にそれが描かれている様子を考えるのは得策ではないと,<br>私は思います.<br>(文章が長引いたので,一旦切ります.)<br><br><br><br><br>要するに4方向の広がりを持った一様な丸い物体で

_ 私信の相手と思われるひと (2005年10月06日(木) 01:53)

(前投稿の最終行は消し忘れなので無視してください)<br>まず2次元球面は,幼少時よりあまりに見慣れているので<br>普段は改めて考えもしませんが,次のように知覚することができます:<br>「1点が膨張して次の瞬間に円周となり,移動しながらその半径が拡大し,<br>ある所から収縮を始めて1点に戻る.その軌跡が2次元球面である.」<br>「伸縮性に富む円盤状のシートを2枚用意し,縁を縫い合わせる.<br>縫った結果は2次元球面である.」<br>このうち後者は,野球のボールを実際にそのように作ります.<br>これを高次元化して,3次元球面をある程度知覚できます.<br>「1点が膨張して次の瞬間に2次元球面となり,<br>移動しながらその半径が拡大し,ある所から収縮を始めて1点に戻る.<br>その軌跡が3次元球面である.」<br>「2個のパチンコ玉の表面同士を溶接する.狭い部分を溶接すると<br>瓢箪か鉄亜鈴のような形になるが,なおも溶接作業を続け,<br>最終的に溶接すべき表面がなくなるまでやる.その結果,<br>3次元球面が生じる.」<br>当然上の2つのことは物理世界では実行不可能です.<br>実際前者は,球面が膨張して収縮して行く過程で<br>いままでに図形が通過した軌跡の上を,もう一度通る必要<br>があります.その結果図形は自分自身とクロスして正しい形に<br>なりません.<br>後者は,溶接が終わる直前までは大体いびつな瓢箪型でいいの<br>ですが,溶接の最終段階で困ってしまいます.<br>我々は,ここで溶接が困ってしまう最後の点を無限遠点と呼びます:<br>この無限遠点を除くと,3次元球面は我々の完全に認識しうる図形です.<br>その図形とは我々の住んでいる3次元空間です.<br><br>なお,3次元球面はそれが専門に近しい人は<br>僕などよりずっとよく想像できるはずです.<br>しかし詳しい知見を得るには,2次元のときと同じで<br>やはり象に触るようなことをしなければなりません.<br>3次元は多くの人にとって直接認識が可能・不可能の境界<br>にあると考えられます.<br><br>(再び切ります)

_ 私信の相手と思われるひと (2005年10月06日(木) 02:18)

4次元に関しては何をかいわんやであって,<br>要は1点が3次元球面に膨張して収縮して1点に縮んでできる軌跡なのですが,<br>もうこの認識方法ではあまり多くのことは分かりません.<br>したがって,位相幾何学も3次元から4次元になると<br>俄然計算をするようになるようです.4次元では<br>理論物理学の手法の応用が盛んと聞きますが,あまりよく知りません.<br>ただ,おいそれと分かるような物ではないことは確かなようです.<br>なお,4次元球面も無限遠点を除けば,4次元空間(物理では<br>「時空」?)になる訳で,これは風船に針で穴をあけると<br>平べったい膜状に広げることができる,ことと類比的です.<br>しかしそれは何次元だろうが同じなので4次元球面を<br>説明している文句であるとはあまり思えません.<br><br>なお,ポアンカレ予想という百年来の<br>重要な数学の問題があって,これは4次元球面に<br>ついては解かれているが3次元球面<br>については最近やっと解かれたとかという話です.<br><br>これは,宇宙に出ずして,自分が球面上に住んでいる<br>ことを知ることができるかという問に結びつける<br>ことができます.<br><br>我々の世界が,引っかかりのない<br>すべすべな表面から成っているとして,長い紐を用意します.<br>紐の一端を持ってある人が立っていて,他の人に<br>もう一方の端を持って世界旅行してもらい,最初の地点に戻ってもらいます.<br>ここで紐の両端が同一地点に来るので,その端同士を接着します.<br>最初の人は世界を巡っている紐を一生懸命手繰り寄せます.世界が球面なら,<br>紐はいつか必ずや自分の手元に完全に手繰り寄せられるでしょう.<br>しかしドーナツの表面のような所に住んでいたとすれば,紐は<br>巻きついて,どうにも手繰り寄せられない状況があり得ます.<br><br>ポアンカレ予想は,何次元世界でも,この方法で<br>自分の住んでいる世界が球面であるかが判定しうることを<br>主張します:つまり,必ず手繰り寄せられるなら球面,<br>然らざる事態があり得るなら球面でない,と.<br>この予想の証明は3,4次元については殊の外,難しいのです.<br><br>(ここでまた切ります)

_ 私信の相手と思われるひと (2005年10月06日(木) 03:08)

最後に「標準ファイバー」についてコメントしておきます.<br><br>6次元の時空宇宙というのがどういう理由でそうなるのかは<br>分からないのですが,とにかく数学は考えるのは勝手なので<br>6次元を考えることも,もちろんできます.<br><br>しかし,6次元はあまりにも次元が高すぎるので,2次元と4次元に<br>分けようと考えます.とりあえず,6次元の時空宇宙というものを<br>2次元の平面状スクリーンに投影してみます.<br><br>すると,その影は,とても6次元であるとは思えないような,<br>平面上のカタマリのようなものであるに違いありません.<br>このカタマリだけからもとの6次元を知ることは不可能です.<br><br>そこで,カタマリには,実際には奥行きがあるのだ,<br>と考えます.奥行きというものがあるとすれば,<br>その中に失われた6−2=4次元分のデータがあるに違いない,<br>と考えます.この奥行きの解析なしには6次元図形を<br>知ることはおぼつきません.<br><br>ここで用語を説明しておくと,大体この奥行きの4次元のこと<br>を「ファイバー」といいます.2次元のカタマリの中の<br>1点(これをPとする)だけに注目して,その点の向こうの<br>奥行きを考えるとき,この奥行きをPのファイバー,とかいいます.<br><br>なんでファイバーという言葉を使うのか疑問だと思いますが,<br>かなり多くの人の頭の中で,この奥行きというものが<br>線の如きものとしてイメージされているらしいのです.<br>まあ本当は4次元だったりもするのだが,想像が大変なので,<br>とりあえず線みたいに思ってみようという訳です.<br>実際,模式的な絵で線のように書くことはしばしばです.<br><br>さて,本題に戻ります.今回の場合「標準ファイバーが<br>4次元球面」というので,おそらく2次元のカタマリ上の<br>ほとんどの点Pでは,Pのファイバーが4次元球面なのでしょう.<br>スクリーンに映って影ができているけど,それは<br>大体奥行きの4次元球面(これ自体謎ですが)が省略<br>されてできたものと思っていい訳です.<br><br>しかしながら,ほとんど,というからには<br>4次元球面でないファイバーもあるかもしれないのです.<br>これを「特異ファイバー」といい,一言で申せば,これは厄介です.<br>特異ファイバーには色々な形が有り得て,中には尖ったような<br>変てこな形もあるという話で,これを研究することは<br>数学者にとって大事な仕事になっています.<br><br>逆に特異ファイバーの分析まで終わってしまえば,<br>もとの6次元はもう相当分かったと言えるに違いありません.<br>とはいっても,この辺はかなり伝聞が含まれていますが.<br><br>という訳で,さきの一文に関して思いついたことを<br>書いてみました.とはいえこの辺りのことは,<br>数学のお話的な本にも色々書いてあるとは思います.<br>では失礼〜

_ もりげ (2005年10月07日(金) 01:09)

どうも、詳細な解説ありがとうございます。なるほど。ファイバーという言葉についてちょっと賢くなれました。<br><br>作中では、この宇宙と違って次元の数が大きく、クオークの数が少ないような裏宇宙が存在する、という設定になっていて、その物理が細かく描かれるシーンがありました(6次元時空における重力の働きなどが詳細に解説されていた)。6次元における重力の振る舞いなんて難しくてなかなか直感的にも理論的にも頭に入ってこなかったもので、数学で多様体などを学んでいたらそういう描写にも、うふふ、と笑いが出るものなんだろうかなあ、と思って、読ませてみたかったんでした。なので、もしも本文をお読みになって面白いと思えたら、書き付けていただけたらとても嬉しいなと。6次元時空宇宙にも、生物が住んでいたりするんですよ!

_ 私信の相手と思われるひと (2005年10月07日(金) 01:27)

今日の授業は,4次元多様体論に何とかの定理が非常に有難く使われているという話.<br>明日はまた,4次元を2次元に射影して,そのファイバーがどうたらの話.<br>なんか上に書いたことって,僕には少しはリアリティでもあるみたいです.<br>まあ寝ます.

[]

  1. もりげ (04-13)
  2. トリガラ (04-13)
  3. V林田 (04-12)


mail:gerimo@hotmail.com