メガネをかけた男子高校生が、『夏への扉』を立ち読みしていた。オールタイム・ベスト第1位の帯に惹かれたのか、『サマー/タイム/トラベラー』を読んで興味を抱いたのか、いずれにしろとても好感のもてる行動である。
ぼくは、彼の同級生の女の子が偶然その書店に立ち寄り、その麗しき立ち読み姿を発見する光景を思い浮かべてみた。
彼女は声をかけようかかけまいか迷う。しばし悩んだあげく意を決して。
「あの」
「え」
「な、夏への扉、だね」
「あ、う、うん。ええと、何?」
「えっ、いやあの、SF、好きなの、かな……と思って」
「あ、や、その」
彼女は失敗したかなと思ってうろたえる。そうだ、今更これを立ち読みしてるくらいだ、SF好きと呼べるような人ではきっとないんだ。あたしったらなんてバカなことを。
「ご、ごめんなさい。あ、あたし結構その本は好きで。その、女の子は夏への扉は嫌うものだって話があるけど、あたしにとってはぜんぜんそんなことなくって――」
「うん、おもしろいよ。まだ途中だけど、おもしろい。俺これ買ってくるから」
わたわたする彼女を前に、彼は少しあわててそう言ってカウンターへ向かう。
おおおおお。彼の今年の夏への扉は、幸せの予感に満ち満ちているではないか。頑張れよ少年。
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