「何らかの行動を起こそうと意識するより先に、脳内では電位の変化が起こっている、という話を聞いたことはあるかい?」
「うん。だから意識は幻想で、行動が意識に先行する以上、意識による自由意志は存在しない。そういう話でしょ?」
「ああ。だけど、そうじゃないんだ、と力説する人もいる。実は、行動の準備電位がすでに起こってしまったあとでも、行動を起こさないという選択ができるんだ。その選択こそ、意識の力だ、というんだよ」
「つまりそれこそが自由意志である、ってことだね」
「そう。だからこそなんだ。しないという選択こそが自由意志であるとすれば、自由意志に従って生きるというのはどういうことになる?」
「えーと……」
「今日の俺のように生きる、ということさ。つまり、意味のある行動など何も、何ひとつなさないで、無為な――」
「くだらない言い訳してんじゃないわよ! やんなきゃいけないこといっぱいあるでしょ!」
「痛い……」
mail:gerimo@hotmail.com
人間は行動する前に意志します。しかし自身がこれから意識することを予め意志することは出来ません。意志されて初めて自身の意志を意識できます。予め意志することが出来るのだとしたら、自身の意志・意識を超越する心が存在することになりますが、われわれはそれを知りません。われわれの意志・意識は常に偶発的であり、シナリオを書くことが出来ない。そのようなことから自由意志は幻想と考えております。