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もりげレビュー


  02年12月レビュー Date: 2002-12-12 (Thu) 
02年12月の雑記へ戻る


小説音楽ゲームアニメ他
アイオーン B+recollections D+あの、素晴らしい をもう一度 C灰羽連盟 A++
ノルンの永い夢 B8つの演奏会用エチュード   
神様のパズル Birthday Song,Requiem  A-  




『アイオーン』

【あいおーん】高野史緒/著:《小説》


 実は高野氏の作品は初めてでした。すみません。いや、なんとなく謝るべきことかな、と思って。
 まあ、彼女の持ち味全開というところなんでしょうなぁ。舞台となる中世ヨーロッパの雰囲気を損なうことなく、高度なロストテクノロジー(……こう言うとなんか嫌だな)つまり失われた科学技術を外挿してしまう手腕は見事。なかなかに現代社会への皮肉も効いていて笑えたりする。この作品は連作短編のような形なのだが、特に「S.P.Q.R.」なんかもう笑えて笑えて仕方ありません。この作品のキーワードは「匿名会議」と「掲示板」。言っておきますが、ローマが舞台ですからね。読んでみてくれ。
 他にもアーサー王の物語があったり、マルコ・ポーロが出てきたり盛りだくさん。もちろん本全体でひとつの物語としても楽しめる。テーマ性は実にはっきりしていて、それは科学技術が発達した今日だからこそ真に普遍的となった問題。人は世界を理解できるのか? とか、何を信じて生きればいいのか? とか、宗教の意味は? とか。これをわざわざ「古代に高度文明が存在した世界にある中世ヨーロッパ」という謎な舞台でやる理由は、読めばある程度納得がいく(まあ、第一には彼女の趣味がそうだから、という理由が来るんだろうけど)。たとえば現代日本を舞台にして、登場人物がそういった宗教的、根元的な問題を突き詰めて語るような物語を作れば、相当の違和感が出てしまう(もちろん、宗教というアプローチを捨てればいくらでも表現のしようはあるけど)。
 人が信仰心を持っていた時代、神や人間存在について真剣に考察するのが日常的であるような時代、そこに現代的な疑問を外挿することで、登場人物は不自然にならずに思考を突き詰めていけるわけだ。
 世界は最後まで謎のままだけど、それでも読後に何かを得た気分の残るような本だった。

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『ノルンの永い夢』

【のるんのながいゆめ】平谷美樹/著:《小説》


 今まで読んだ彼の作品でベストかも。簡単に言ってしまえば時間SFの一種だろう。現代のSF新人賞受賞作家である兜坂涼と、第二次大戦直前のドイツに留学中の研究生、本間鉄太郎の話が、互いに交錯しながら進んでいく。兜坂の受賞作は、本間が残した「高次元多胞体理論」と酷似しており、その結果として兜坂は外国の特務機関等につけねらわれることになる。高次元多胞体理論とは一体なんなのか。本間鉄太郎にはどんな秘密があるのか。
 例によっていろいろな部分で「なんだかなぁ」感は拭えない(はっきりどの部分か指摘しろ、と言われると難しいのだが)。だが、ラストに至る部分の情感の切実さは収穫。こういう当たり前な願いに、私は弱いのかもしれない。また、世界の境界がぼやけ、揺らいでいく目眩のような感覚も、そこそこに描けていると感じた。
 結局、いままでの作品で用いた「神は実在するか否か」という質問の仕方が悪かったのであって、要するに言いたいことは「自分たちは何を大切と信じて生きるのか(あるいは信じられるのか否か)」なのだ。その表現が、この作品ではある程度つたわってきたのが良かった。
 ついでに彼の『呪海』とかいうホラーもこの間読んだ(なんでこんなの読んだんだろうか、私は)。で、言いたいんだけど、平谷さん、いい加減に小説の舞台がいつもいつも岩手という罠から逃れられませんかね?

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"recollections"

【りこれくしょんず】KANON arrange best album:《CD》


 言わずとしれた鍵ゲーム、カノンのBGM編曲集。なんだかんだで買ってる罠。いや、だって麻枝氏の曲が入ってるし。しかし、買った結果は……うーん。全体的にリマスタリングのお陰でアネモスコープより随分音はいいけど。
 ラストリグレッツのアコースティックバージョンは夏影、ノスタルジアの編曲者と同じですな。サビ部分の和声進行なんで変えるんだ、と最初は憤ったが、聴くうちにこれもありかな、と。しかしピアノの音質(とか打鍵タイミングとか)もう少しデータに改良の余地ありだと思う。
 その他、麻枝氏の曲としては冬の花火(折戸編曲)や残光(同じく)もあったわけだが、これらはなんつーか原曲の良さばかりが目立つ結果という印象。冬の花火のメロディー、得難いですよ本当に。折戸が改変してる場所は、改悪としか言いようがない。
 今度の冬コミでまた 麻枝+Lia のマキシが出るんだよなぁ。ただしテレカ等と抱き合わせ。マキシだけ欲しいんだけどなぁ。

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『8つの演奏会用エチュード 作品40』

【やっつのえんそうかいようえちゅーどさくひんよんじゅう】ニコライ・カプースチン:《楽譜》


 遅ればせながら買って参りました。まあ譜読みは早いほうでもないし、他に弾かにゃならない曲もあるのであんまり練習はしてないんだけど。いやあ、ジャズだねぇ。ジャズがこんなにクラシックな楽譜として書かれているのも珍しい。というか、即興という側面を完全に廃したこの曲集はジャズの語法で書かれたクラシック、という方が正しいのだろうが。
 ニコライ・カプースチンはロシアのピアニスト兼作曲家。世に言う「コンポーザーピアニスト」ってやつですね。でまあ、ソナタ形式のジャズなんか作っちゃったりしてるわけです。自作自演の音なんか、ジャズなのにどこかラフマニノフっぽい、などという評判。ロシアだしね。実際ところどころラフマニノフみたいな重厚な和音とかが現れて、そういう雰囲気ではある。
 しかし、こんなに弾いてて気持ちのいい曲たちもあまりない。プレリュードの冒頭でもうすでにハマってしまいます。それぞれの曲のちょっと隠された相関関係とか、掘り下げる楽しみもそれなりにあるようだ。がちがちのセリー主義の人たちなんかには辿り着きようもなかった、まさに斬新な、今までになかったタイプの音楽として後世に残るに違いない。いつかカプースチンの曲は舞台に乗せてやろう、と決意した次第。

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『あの、素晴らしい をもう一度』

【あのすばらしい をもういちど】自転車創業:《ノベルゲーム》


 ノベル系はいろいろとやっておこうと思ってはいるもので、アノスシステムなどと言われると一応はやっておかねばと。で、秋葉に寄ったときに中古で見つけたので買ってみました。ちなみにペケ6版はやってないのであしからず。
 「目覚めたとき、おれには『過去』が無かった。そして傍らにいた少女には『未来』が無かった」……記憶をなくした主人公と、前行性健忘になった少女の物語。ふたりは、堕天使リビリュートを倒すという使命を帯びていたらしい。リビリュートを倒し、過去を、未来を取り戻すことはできるのか? というのがとりあえずのゲームの外見。
 ゲームとしての完成度については、突っ込みどころと感心する箇所とがそれぞれという感じ。突っ込みどころとしては「こんな大切な場面で文章使い回すなよ」とか、「立ち絵の表情・姿勢が動きすぎて怖い」とか。感心といえば背景絵がランプの光の揺らめきでアニメーションしてたりとか。
 だが、まあそのような細かい点は置いといて。本質としてこの物語はどうだったか。
 ANOSとは、Advanced Novel Operation System の略。このシステムは、物語自体と深いつながりを持っている。実際、主人公がある方法で手に入れることができる ANgel Omnipotent Stone という物体として、このアノスシステム自体が作品世界の中に取り込まれている。もちろんこのアノスという言葉はタイトルともリンクしていると考えられ、このような狙いはおもしろかった。
 しかしまあ、そのシステム自体は、大層な名前の割には貧弱だな、という印象を受けてしまった。繰り返しプレイを強要するノベルがあるが、あれを親切設計にしたという感じ。まあ、うたい文句にあるような「多層的立体的な累積型シナリオ」という構造体を実感させるという効果もなくはない。だが、それは作品全体を分岐も含めてひとつの結晶にしてしまうようなもので、如何ともしがたいボリューム不足と相まってなんとも作品世界全体を矮小化させているようにも思えるのだ。
 そして、「多層的立体的な累積型シナリオ」そのものが、物語としての欠点に直結してしまっている。この作品には、「伝えたいこと」が確かにあると思う。そして、それを制御するシステムの構想もはっきりと存在する。だが、伝えたいことを完全に制御下において物語を作るというのは、実は問題なのではないか。自由に動いていく、生きた物語の力強さは、そこにはない。
 この作品は、まさに ANgel Omnipotent Stone の中に結晶化されてしまった物語だ。当初からそれが狙いだ、とうがった見方をすることも可能ではある。が、おそらく、トゥルーエンドのメッセージとこの作品のシステムは、あまり相性が良くなかったのではなかろうか。純粋なパズルとしてつくり、最後に明らかになる世界に緻密な構成の妙を感じるような内容であったなら、より成功したのではないか。そんなことを思った。

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『神様のパズル』

【かみさまのぱずる】機本伸司:《小説》


 ようやくこの小松左京賞受賞作を読むことができた。萌え〜。
 片思いの相手を追いかけて取ったゼミで、主人公の綿貫基一は教授からある頼みをされる。それは16歳の少女、穂瑞沙羅華の「お守り」であった。穂瑞は精子バンクを利用して生まれ、巨大粒子加速器「むげん」の基礎理論を9歳で築き、飛び入学で大学生となったまさに選ばれた天才だ。気が進まない綿貫と、そもそも大学に来る気はまったくないらしい穂瑞。はじめはそんな調子だったが、ふとしたことから、穂瑞はゼミに姿を現すようになる。そしてゼミのテーマに決まったのは「宇宙は作れるか」。綿貫と穂瑞はふたりだけで「作れる」派としてディベートをしなければならなくなって……。最終的に物語は実際に「むげん」で宇宙を作れるか――というところまで進んで行く。
 とりあえず読み始めて思ったのが、なんか文章へただなぁ、ということ。大学生の日記である、というスタイルであることを考慮しても、あの下手さ――特に序盤――は困る。
 他にもいろいろと困ることはある。たとえば宇宙のシミュレーションをするシーンが出てくる。宇宙のシミュレーションと言えば『順列都市』なんかを思い浮かべるが、この本ではあんな「塵理論」みたいな圧倒的アイディアなど欠片もない。ごく普通に宇宙のシミュレーションを走らせて、「計算を省略するようにして望みのシーンだけクローズアップで観察できる」みたいなことを言ってみたりする。いくらなんでも無茶である。
 主人公は無知すぎるし、途中で引用される音律の話も妙に不自然だし(普通の楽典に12平均律と基準音、さらには古典調律やピタゴラス音律まで載ってると思うのだが)、ファイルを開くパスワードが英単語だったりする。物理関係はぼく自身無知なのであまり言えないが、他にもあちこち突っ込みどころはあるだろう。
 しかし、ぼくはさわやかな読後感が残るこの作品が結構好きだ。ラストまで相変わらず書き方はあんまりうまくない。でも、ちゃんと物語としてきれいな形になっているし、テーマに対する答えは納得のいく形で語られる。「あんな思考停止には納得などいかないしベタに過ぎる」という批判もできるだろう。ああいう結論好きのぼくから見ても、さすがに当たり前すぎてうんざりという感もなくはない。それでも、ぼくは綿貫の提出した卒論――素粒子物理学のゼミレポートにしてはいささか感傷的すぎる内容――に全面的に賛成したいし、結局はそれが大切なのだ。音楽で感動してみたり、田植えをしてみたりせずに世界を語るな、と。「むげん」の観測室にこもる穂瑞に綿貫が語りかけるシーンは、世界のあり方を浮き彫りにするような名場面だ。
 だから、この作品はただSFとして読むよりは当たり前のことを書いた物語として読むべきなのだろう。SF好きだけでなく、直球な物語が好きな人にもお勧めである。
 しかし、何より、萌え。穂瑞、萌え。男言葉で話す超天才美少女、萌え。
 というか綿貫! 保積さんとやらがどれほど素敵な女性に思えるのか知らないが、穂瑞の方がずっといいじゃないか! なんでそこでお前はぐいっと行かないんだ! 男だろ! 穂瑞が泣いてるじゃないか! 守ってやれ!
 そういう意味で最萌な展開にしなかったのは作者のこだわりなのかもしれないが、ここまできたら「どまんなか直球」狙いでも作品の評価も意義もさがらなかったのではないかと思う。最後のあの家族の姿が本当にベストとも思えないし。
 結論。人物描写が薄い割になんかちゃんと人間としての善悪両面もってそうな他の登場人物なんかどうでもいいから、天才美少女穂瑞に萌えろ!
 あと追記しておくと、途中でちらりと触れられる究極理論のアイディア、結構美しくまとまっている。実際にはどうだとかは関係なく、なかなかうまいこと考えたな、という感じで楽しめた。

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『灰羽連盟』

【はいばねれんめい】脚本/安倍吉俊 監督/ところともかず:《TVアニメ》


 草原を風が渡る。陽の光を受けた草がなびくにつれ、波頭のような光の帯が流れるのが見える。丘に並んだ3枚羽の風車がゆっくりと回っている。緑を割って伸びる土の道を街へと歩く。小川にかかった橋を、そのきらきらした水面を見ながら越えて、坂道を下っていく。
 そうしてふと、なんだか軽い自分の足取りに気づいて笑ってしまう。別に何があったわけでもないのに。大好きな仲間や、親切にしてもらった街の古着屋さんのことなんかが思い浮かんだりする。
 雲の浮かぶ空を見上げる。歌でも歌ってみようか。

 自分の心さえ欺瞞に満ちて、この世に信じる物などなにひとつない。こんなわけのわからない「世界」という地獄に閉じこめられて、孤独でたまらなくて、もうあとは死ぬしかないんじゃないか。そんなふうに考えることは誰だってあるだろう。
 『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』の「世界の終わり」を彷彿とさせる、壁に閉ざされた街、グリ。そこで人間にまざって暮らしている、一見天使のような外見の、でも決して天使なんかじゃない「灰羽」。そんな彼女らの生活を描くことによって、世界への不信、自分の中にある汚濁、孤独感、そんな暗い心に救い=許しを与えてくれるのがこの作品だ。

 別に気構えて見る必要などない(実際、ぼくもはじめは雰囲気アニメ/萌えアニメだと思ってました)。作りこまれた異世界の景色に、とりあえず酔っていればいい。鳥にしか越えることが許されないという壁。街の外から来る、トーガと呼ばれる行商以外は通ってはならない大門。動かなくなった時計塔。古い寺院。遺跡。
 それに、羽の生えた少女たち。頭上に浮かぶ光輪がうまく定着しないから、と言って針金と厚紙(?)で作った「補助」を頭にかぶっている新米灰羽ラッカの姿は、ほほえましくて萌え度抜群(あくまで個人的な感想ですが)。
 美しい背景画と巧みなカメラワークで、まったりと描かれる日常にたゆたっている心地よさ。その暖かな雰囲気に頬をゆるめながら回を追い、ラッカもこちらもグリの街に馴染んでくるころ――物語は急速に動き出す。
 あとになって見直してみると、ゆるやかな日常描写の中にも、実はたくさんの意味や思いが隠されていたことに気づく。実に丁寧に作られた脚本だ。プロデューサーが、「繰り返し見ることでどんどん印象が変わる作品」と言っているのもうなずける。

 ただし、はっきり言ってこの物語は破綻している。たとえば「謎」として提示された事柄の多くに対して、まったくフォローのないままに終わってしまった。世界観にはどう見ても歪な点が散見されるし、展開上のある問題に起因するバランスの悪さは奇妙にすら思える。
 また、ストレートな心情吐露の青臭さや問題意識の持ち方のあまりの明快さ。それらは本来なら物語の肝となる部分であるにも関わらず、逆に見る人間の興をそぐ結果となりかねないものだった。
 つまるところ、お話として成功しているとは言い難いだろう。
 それでも、敢えてこう言おう。この作品は、紛れもない傑作である

 観念的な話になってしまうが、なべて作品と呼べるものには2種類あると思う。「つくられた作品」と「掘り出された作品」だ。そして後者が、本来あるべき作品の姿なのだと思う。すでに完成品としてどこかに埋まっている作品を見つけた作者はそれ自体に導かれ、掘り出していく。そうして生まれ出た作品は、美しい。それはもう、理屈ぬきで存在感があるものなのだ。この灰羽連盟という作品は、まさにそれだ。この作品世界の確かな質感は、さまざまな欠点を補ってあまりある。1話放送時に2話が完成していないという初っ端からギリギリの進行でここまでの完成度を誇れたのも、脚本の持つ存在感にスタッフが引き込まれたからこそだろう。
 安倍氏は、自分の中に育った美しい作品を、欠損させることなくうまく発掘した。これは凄いことなのである。

 だから、物語が破綻しているとか、表現がナイーブすぎるとか、そんな理由でこの作品の魅力に気づかずにいることは不幸だとしか言いようがない。だって、そもそも我々の住んでいる世界だって、わからないことだらけなのだから。
 世界は牢獄のようなものなのかもしれない。人間の心は欺瞞だらけかもしれない。だけど、ほんの少し、人の優しさや世界の美しさを信じてみる。我々はそうすることができる。

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"Birthday Song,Requiem"

【ばーすでいそんぐれくいえむ】Key+Lia:《マキシシングルCD》


 ありがたいことに入手できたので書いてみる。興味ある人などほとんどいないだろうけどね。そもそも麻枝氏に共感できる人って相当ダメな人間だけだろうと思う。

 いろいろと期待はあった。タイトルもなかなか素敵だ。しかも、このジャケ。マルコ福音書 16-6,7 がなぜか引用してある。こういう意味不明な引用ってのは結構好きなのだ。
 で、期待を込めて聴いた中身の方……悪くはないのだが……。
 相変わらず一人称がぼくで強さとか歩くとか手を伸ばすとか覚えてるとか言う(しかも一曲の中で自己矛盾してたりする)痛い歌詞は個人的にはツボ。ボーカルのLiaさんについては、なんかどんどんパワーアップしてないか、この人、と思ったし。メロディーラインの先が見えない動き方も健在。一回聞いただけでは曲の全体像が把握できないところは麻枝氏特有の魅力だと思う。
 が、しかし。夏影/ノスタルジアを聴いたときの衝撃には及ばないなぁ。無理矢理に音源でオーケストラやアコースティックをやってしまったあれより、音の完成度としてはこちらが上なのですが。
 タイトル曲は、曲名から受ける印象とまったく異なってビートの利いたメジャーのアップテンポ。氏のいう「せつな疾走系」ですな。過去に置いてきた大切な物への痛切な喪失感を感じつつも歩いていける強さ、という感じ。自分で大切な何かと決別することで、先に広がる世界に気づくことができる。
 曲調から、なんとなくYOSHIKIの"Anniversary"を連想したんだなぁ(私だけだろうけど)。要するに、ひとつのトーンで初めから終わりまでべた塗りしたような印象がある。fishtoneリミックスの方も、元の戸越まごめ氏のミックスとややかぶり気味であまり目立たなくなってしまった(聞くところによれば、fishtoneは和物を取り入れたサウンドが持ち味だそうだから、それを生かす手もあったろうに)。
 カップリングの「恋心」は、もう済んだこと、薄れていく記憶に対する諦念をいだきつつも、大切だった思い出をかき集めてその中で目を閉じる、という感じか。ゆっくりと流れる単純な旋律が、ふたりだけが世界の全てだと思えたあの瞬間をやさしく溶かしてゆく。
 ま、麻枝准氏が嫌いならキモイだけかと思うけど、ファンならとりあえず聴いておきましょう。一般発売もたぶんあります。

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感想、憤激、おまえの正体は見破った等、もしよろしければこちらまで


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